最適な退職時期に関する考察
現実逃避としてFIREを達成した時にいつ退職するのが金銭的に最適なのかを考察してみました。結局直感的にそうだろうなという結論に至りました。まあ定量化出来たのでよしとしましょう。
最適な退職時期の定義と前提条件
最適な退職時期を定量化するために労働の効用を定義します。ファイナンスの書籍でよく効用という言葉が出てきます。かっこいいので私もこの単語を使って記載します(効用:人が財を消費することから得られる満足の水準)。
労働にはプラスの効用とマイナスの効用があります。プラスの効用は金銭収入、マイナスの効用は労働時間です。プラスの効用とマイナスの効用を月ごとに定め、その月までの総和が最大になる月を最適な退職時期と定義します。簡単のために税金は無視していますがおそらく税金を考慮しても今回の結論は同じです。それぞれの内訳について記載します。これは私の状況に特化したものです。
プラスの効用
それぞれの月に下記表の効用が発生するとします(単位は万円)。直接収入は退職金、およびボーナスです。毎月の収入は労働の対価ですので、毎月のマイナスの効用と相殺するとして考慮していません。
私が勤めている会社では1月に退職金が1年分付与され、7/12月にボーナスが支給されます。休暇は土日とは別の長期連休、および4月に付与される有給休暇をそれぞれ1日につき2万円で換算しています。
マイナスの効用
1~12月に付与されるプラスの効用の和を12で割った値を毎月に発生するとします。こうすることでどの月から初めての1年後の同じ月には効用の総和が一定になるため計算が楽になります。またこの簡易化は何月にFI(Financial Independence)が達成できるかが分からない現時点では妥当だと考えます。
もしFIを達成した時点で1年待たずにすぐに退職したい場合は毎月のマイナスの効用が大きくなります。この場合はFIを達成した時期に応じて結果が変動することになります。
月ごとの効用
各月に発生する効用を図示すると下記になります。
結論
前述の定義の下で累積の効用がどうなるかを以下に示します。1月(赤矢印)が最も効用が最大になっています。またほぼ同じ高さになるのがボーナスが支給される7月(青矢印)ですが、税金を考慮すると7月は不利になると考えられれます(4~6月の収入で社会保険料が計算されるため)。このことから1月に退職するのが望ましいと考えます。
目標アセットアロケーション
私のアセットアロケーションの考え方について記述します。「アセットアロケーションの最適化」、「イェール大学流投資戦略」、「世界のエリート投資家は何を考えているのか」などの書籍で学んだ内容をもとに、自分の置かれている状況を踏まえて納得できるアセットアロケーションに落とし込んでいます。
背景:資産総額>>労働収入
まず期待リターンが最大になる株式100%ではなく資産クラスを分散する背景について説明します。
私は現在30代で労働収入は年間750万円(内、年間投資可能額400万円)です。まだ比較的若いため価格変動リスクを負える立場ですが、これまでの積み重ねで資産総額が5300万円(23年1月現在)と、年間投資可能額と比べてかなり大きくなっています。資産総額が少ないうちは値下がりしても安く買えるから気にしないと自分を納得させることもできますが、この額になると仮に半額になった場合に2650万円損したけど400万円分安く買えたからOKとは思えないかなというのが正直なところです。
また私のリスク許容度はそこまで高くありません。事実私にとって株式投資を始めてから初の暴落であるコロナショック時には自分を納得させるそれっぽい理屈をつけて資産の20%程度を底値から半戻りしたときに売却してしまいました。この時よりは精神的に成長出来ていると思いますが、、、
方針:リスク抑制
これらの理由から価格変動による精神的負担を軽減するために変動を抑制したいという思いがあり、期待リターンを低下させても構わないので、リスクを抑制するという方針で資産クラスを分散させるようにアセットアロケーションを組んでいます。
副次的な期待:適切な逆張りによるリターンの向上
またイェール大学流投資戦略の中で心に響いた内容があります。それは「あらかじめ決められたアセットアロケーションを満たすように定期的なリバランスをすることが適切な逆張り投資になる」という旨の記述です。適切な逆張りが出来ればリターンを改善できますが暴落中に買い向かうことは常人には難しいです。アセットアロケーションをあらかじめ決めておき維持することを機械的に実行すれば、自動的に適切な逆張りをすることが出来ます。
アセットアロケーションの詳細
結論としては現在の私の目指すアセットアロケーションは下記の比率になります。この配分はレイダリオのオールシーズンズ戦略に強く影響を受けています。オールシーズンズ戦略は簡単に言うと、経済環境を4つ(インフレ/デフレ×好景気/不景気)に分け、次にどの環境が来てもリターンを確保するという戦略です。
次に各資産クラスに投資する理由について説明します。
株式(50%):リターンを追求する資産
ジェレミーシーゲルの株式投資で長期的に株式は他の資産クラスをアウトパフォームしてきた歴史が示されています。今後も長期的に資産を増やしていく原動力となるのは株式だと考えているため資産の50%を株式で保有します。
50%に特に根拠はなく、まだまだ資産形成途中なのでなんとなく50%は株式を保有しておきたい程度の理由です。おそらくFIREを達成した際にはもっと株式の割合を低下させると思います。
株式の配分はかなり難しいテーマで、名著と言われる書籍の中でも推奨している割合は大きく異なっています。例えば、
- ウォール街のランダムウォーカー:65%(30代)
- 敗者のゲーム:100%(30代)
- 世界のエリート投資家は何を考えているのか(レイ・ダリオの章):30%
このように名だたる投資家や経済学者でも株式の割合については見解が分かれているため画一的な正解はないと思います。これが仕事であれば何らかの理由付けを行う必要がありますが、だれに決済を貰うわけでもない個人投資家の特権としてえいっ!と決めています。
債券(25%):株式との高い逆相関性による価格変動抑制
債券に求める役割は株式と逆の値動きをすることで株式の下落時に資産に与える影響を抑制することです。この目的を達成するために債券の中でも超長期(20年超)の米国債に投資します。超長期の米国債を選択した理由について説明します。
- なぜ米国債なのか
本来、為替リスクを抑えるために日本の国債に投資するべきですが、残念ながら日本の国債金利は20年債(1.4%、23年1月)と低く、今後上昇する余地がかなりあり一方で下落する余地は限定的です。また日本の超長期国債に低コストで投資できるファンドも見つかりませんでした。そこで低コストに投資でき、かつ金利が高いという条件で債権は米国債に投資をしています。 - なぜ国債なのか
次に社債でなく国債を選択する理由についてですが、社債は例え適格社債であっても景気悪化の影響を受けます。米国債、米国社債、株式のコロナショック時の価格変動を示します。投資適格社債のLQDですら株式と同様に下落しています。これでは株式と逆の値動きを目指すという目的を達成できないため社債は一切組み入れません。
- なぜ超長期債なのか
残存期間が短い債券は値動きが少ないという特性があります。値動きが少ないというのは良い事だと感じるかもしれませんがが、株式の値動きをカバーするという目的のためには株式と逆方向になるべく大きく変動する必要があるため超長期債を選択します。
また前述の理由で米国債を選択するという前提に立つと、短期債は相対的に為替変動による影響を強く受け株式下落時の逆の値動きという役割を果たせない可能性があります(株式の下落と同時に円高になるなど)。
ゴールド(10%):通貨の信用が低下する危機発生時の価値保全
ゴールドに求める役割は通貨の信頼が揺らぐような経済危機が発生した際の価値の保全です。
また個人的にはゴールドは長期的には債券と同程度のリターンをもたらすと考えています。ジェレミーシーゲルの株式投資の中でゴールドの価値は債券に劣後しているとの記述がありますがこれは1971年までドルとの交換比率が固定されていたためだと考えます。事実71年以降のグラフの傾きを見ると債券と同程度の傾きになっています。
エネルギーセクター株式(5%):インフレヘッジ
これまでのところは他の書籍にも書かれていますが、エネルギーセクター株式への投資は他ではあまり見たことがないため詳しく記載します。
レイ・ダリオのオールシーズンズ戦略やイェール大学流投資戦略ではインフレに対応するためにインフレ連動債(TIPS)や、実物資産への投資が推奨されています。しかし我々日本の個人投資家にとってはどちらも適切ではないというのが個人的な考えであり、それらの代替としてエネルギーセクター株式が有望だと考えています。
まずTIPSや実物資産が不適切だと考える理由について説明します。
- TIPS:為替の影響を強く受ける
TIPSに投資するETFを私が調べた限りだと平均デュレーションが短く金利変動に対する影響だけでなく為替変動の影響を強く受けるためインフレ時の価格上昇をを為替変動が打ち消してしまう可能性があるため不適切であると考えます。(前述の債券で短期ではなく超長期に投資する理由と同様です) - 実物資産
商品先物に投資するETFとしてEMBがありますが、こちらの長期チャートを見ると価格はせいぜい横ばいです。異常時にうまく反応し短・中期で持つ用途には使えるかもしれませんが長期で持つものではないと考えます。
次にエネルギーセクター株式への有効だと考える理由は以下の2つです。
- インフレによる株価下落と強い逆相関がある
2019年以降のS&P500とVDE(米国エネルギーセクター株式に投資するETF)の値動きと2つの指数の相関関係を示します。相関係数は上に行くほど高く同じ値動きをすることを示しています。平時においてはこの2つは強い正の相関を持っていますが、2022年からインフレが意識された相場においては負の相関となっており、逆の値動きをしています。この背景にはインフレとエネルギー価格には強い相関があり、エネルギー価格の上昇がエネルギーセクターの株価を押し上げることがあると考えます。このようにインフレが意識される局面において強い逆相関があるエネルギーセクター株式はインフレヘッジとして有効であると考えます。
- 保有コストがかからず、配当金が貰える
EMBを保有する場合は年間0.5%程度の手数料を支払はなければなりません。しかし商品先物と異なり、エネルギーセクター株式は保有している限り高い配当金を貰えます。
現金(10%):流動性確保、円高ヘッジ
最後に現金になります。こちらは基本的に日本円になります。目的はほぼすべての資産を外貨建てで持っているため円高時の影響緩和とリバランスや損だしなどを実行する際の流動性を確保するために現金を保有します。
最後に
最後までお読みいただきありがとうございます。各資産クラス内の具体的な配分や銘柄については別の記事として書きたいと思いますので、その際には再度読んでいただけると幸いです。